木のおもちゃ作りを通して、子どもたちに達成感を伝えたい
手を動かしてものを作ることは、子どもの成長にとってとても大切なこと。自分で考え、パーツを組み立てる。うまくできても、失敗しても、それは子どもたちにとって貴重な体験。木工工作クラブで木のおもちゃ作りを教えながら、番場さんは自分で作り上げる達成感を味わって欲しいと願っています。
番場幸一さん(木工工作クラブ指導者)
INDEX
- 秘密基地を用意し、自由な時間を求めて早期退職
- 始まりは孫に作った木馬。夢中で遊ぶ姿がうれしくて
- 子どもたちの顔を想像し、教材を作る楽しい日々
- 音が出る、空を飛ぶ、結果が伴うから達成感がある
- 失敗OK! 大切なのは自分で考えて作ること
秘密基地を用意し、自由な時間を求めて早期退職
「ばんばちゃんのおうち」。入口の柱に手彫りされた屋号が看板代わりの一軒家。ここが番場幸一さんの秘密基地。屋内は1階にも2階にもさまざまな種類の木材や竹、カットされたパーツや完成見本、試作品などが所狭しと置かれています。番場さんが指導する木工工作クラブで使う材料です。「次はどんな教材を作ろうかと考えたり、パーツを作ったり、ここで過ごしている時間はほんとに楽しい。こんな贅沢な人生でいいんだろうかと思うくらいです」。
番場さんは、地元の高校を卒業した後、関西の大学へ。帰郷後、旧小出町役場に入庁、小出郷広域組合で地域の公共サービスの仕事に従事していましたが、51歳で早期退職。「40代のときから53歳で退職しようと思っていました。子どもが大学を卒業したら、自分の自由な時間を持とうと」。予定より少し早めの退職となりましたが、事前に秘密基地となる家も購入して準備万端整えました。「具体的な目的があったわけではないです。とにかく自由な時間が欲しかった。家を購入したことで、これで自由に過ごせる場所ができたって、早期退職する気持ちをより強くしましたね」。
番場さんの後を追うように、1年後には奥さんも公務員を退職。2人で山登りをしたり、旅行に出掛けたりしながらも、番場さんは週のほとんどをこの秘密基地で寝泊まりするようになったといいます。「自宅にいたんじゃ近所の目もあるしね(笑)。この家があるおかげで、1日まるまる自分の時間。朝起きて、今日も1日自由にできるって思うだけでうれしかったですね」。
- 番場さんの秘密基地の外観。夏の暑い日の取材にもかかわらず山里の秘密基地には涼しい風が流れていました。
- 家の前にある納屋にもたくさんの木材がストックされています。
- 家の2階も素材置場。山から切り出してここにストックしています。
始まりは孫に作った木馬。夢中で遊ぶ姿がうれしくて
退職後しばらくして地域の活性化を目的とするNPO法人「魚沼交流ネットワーク」に参加。ここで木に関わる仕事と出会います。「里山整備の一環で遊歩道の整備や間伐などをやっています。チェーンソーで木を切ったりするのが楽しくてね、山登りするよりもこっちのほうがずっとおもしろい。それに切った木は自由に持ち帰れるので、それを使って孫に木馬を作ってあげたのが木工を始めた切っ掛けです」。
自分が作った木馬でお孫さんが夢中に遊ぶ姿を見て木工にのめり込んでいった番場さん、試しに出品したフリーマーケットで木馬が売れたことなどもあり、さらに拍車がかかって木工漬けの日々に。「誰かに教わったわけではないですが、子どもの頃に木をナイフで削ってチャンバラをしていたような世代ですからね、私たちは。誰でもある程度はできますよ。木工を始めて10年以上になりますがら、私はそろそろ半プロかなと思っていますけど(笑)」。
番場さんが製作した木馬や竹馬などは、地元の物産直売所「元気すもん」で扱っていますが、現在の木工製作のメインは木工工作クラブ。市内の2つの小学校で子どもたちに木工の楽しさを伝えています。
1.2. NPO法人「魚沼交流ネットワーク」に参加して里山整備の一環で遊歩道の整備や間伐の伐採を行っています。
3. 写真下の左端の木馬が、番場さんが最初にお孫さんに作った木馬。お孫さんが着色したそうです。
子どもたちの顔を想像しながら、教材を作る楽しい日々
「交流ネットワークで夏休みなどに何度か木工を教えていたんですが、木工工作クラブは孫が通っていた伊米ヶ崎(いめがさき)小学校から声を掛けられて受け持つことになりました。今、伊米ヶ崎小学校が7人、後で始まった小出小学校が15人。それぞれ年間10~12回ありますから、頭の中はそのことで一杯。教材をそろえるのもたいへんで、毎日材料を刻んでいます」。
輪ゴムピストル、パイプ笛、えんぴつ立て、ブーメランにミニ尺八、クリスマスツリーなど、現在のレパートリーは20種類ほど。「工作の本やおもちゃ屋に並んでいる商品などを参考にして考えています」。素材は山から切ってきた木材や竹、必要に応じて製材所から調達することもあるといいます。これを秘密基地で切り分け、形を整え、ヤスリがけなどを行って、組み立てキットに仕立てます。一つの教材で20人分以上、ほぼ毎週のように用意しなければならないわけですから、生半可なことではありません。でも、番場さんは実にうれしそうに話します。「今度はちょっと難しいやつを考えてみようかとか、工程を少し増やしてみようとか、パーツを増やしてみようとか。子どもたちの顔を想像しながらそんなことを考えて手を動かしている時間は掛け値なく楽しいですね」。
- 工作クラブでの指導風景。
- ピー玉迷路の試作品。
- 竹の長さで音程を合わせて作るパイプ笛。
- 無垢の木に着色して組み合あげるクリスマスツリー。
音が出る、空を飛ぶ、結果が伴うから達成感がある
教材について番場さんには自分なりのポリシーがあります。「私は自由に形を作るような工作は好きじゃなくて。きちんといいものを作れば音が出るとか、飛ぶとか、結果が伴う工作。自分の作った笛で音が出れば、子どもたちは『やった!』ってなるじゃないですか」。そこからもの作りの楽しさ、そして達成感を感じて欲しいと番場さんは話します。
達成感を感じてもらうため、どうしたら子どもたちが最後まで飽きずに作れるか。番場さんは、キットの内容や工程にも気を配っています。「パーツを組み立てるだけでなく、ノコギリやナイフなどの道具も使ってもらいますが、どの程度まで準備していくかですよね。簡単過ぎると子どもたちはおもしろくないし、難し過ぎてもダメ。その辺の案配が大切だと思っています。つまらないものを持っていっても、あまり真剣にはやりません。子どもたちは正直だからいつも真剣勝負。本当に夢中になって作ってくれるか。私が試されているような気持ちで準備しています」。
どの部屋にも、さまざまな工作用のパーツが整理されています。
失敗OK! 大切なのは自分で考えて作ること
「子どもたちには自分で考えて作ってもらいたい」とも番場さんは話します。「木工工作クラブでは、あまり教え過ぎないように心掛けています。完成見本を見て、自分なりに組み立ててもらうように。でも、つい手を貸したくなるんですけど(笑)。見本通りじゃなくてもいい。失敗してもいいんです。むしろ失敗したほうがいいとも思っています」。釘を打つにも、パーツの取り付け方にしても、失敗することで、打ち方や構造の理由などを分かってもらえるからだと言います。「うまくいったり、失敗したり、いろんな経験をすることがいい思い出になりますし。大人になったとき、自分の子どもにも何か作ってあげようかって思ってもらえればうれしいですね」。
ほぼ毎日、秘密基地に寝泊まりしながら子どもたちの工作キットを作る番場さん。最新作はビー玉迷路。パーツを組み合わせてビー玉の転がる方向を変化させられる自信作です。「子どもたちが自由に形を変えられるから、自分で工夫する楽しさを感じてもらえる。これは絶対にヒットしますよ(笑)」。
子どもたちの顔を思い浮かべると、自然に笑みがこぼれる番場さん。木工と出会い、退職後の人生がより充実したものになりました。
地元の物産直売所で販売している竹馬。本来握り棒が足となる竹馬では、子どもたちがうまく乗ることができないので、後ろにもう一本足をつけて誰にでも乗りやすくしています。
住所:〒946-0023 新潟県魚沼市干溝1848-1(魚沼市小出郷文化会館)
TEL:025-792-1336